第二章 小窓尾根
馬場島の公園内は、車の通行が可能な道路が早月尾根の取りつきに向かって奥まで整備されているが、冬は一面白い雪原となっている。その上に、おそらく今朝早月尾根に向かったのであろうパーティーのトレースが残っていた。そのトレースをたどってしばらく進むと、小窓尾根方面、白萩川河岸に延びる道の分岐に出た。
進むべき白萩川河岸への道は、一昨日入った先行パーティーのトレースが雪面に微かな窪みとして残っている程度であった。やはり、ここから先は相当のラッセルになりそうだった。前を行く鬼島は分岐で少し立ち止まり、白萩川河岸への道に足を踏み入れていった。
雪の量は脛から膝くらい、ところによって腿まで埋まる深さであった。馬場島付近でこの深さであれば、小窓尾根の取りつき地点にある雷岩近辺では胸くらいの深さとなっているだろう。鬼島はなるべく雪を踏み固めるように、しっかりと、一歩一歩ラッセルしていった。進む速度は、馬場島までの十分の一程度となった。
五十メートルほど行くと、鬼島が「交替」と言って脇に逸れた。
「疲れる前に交替しろよ。先は長いからな」と言いながら川田を先頭に出るよう促した。川田は鬼島と同じように、先行パーティーの微かなトレースの上にワカンを履いた足を踏み出していった。
前夜の寝不足と入山初日の緊張感もあり、そしてまだ体が山に馴染んでいないせいか体調の悪さを感じたが、しかしだいたいいつも入山初日はこんな調子だったろうと川田は自分を納得させた。