湘南は暑さのピークが過ぎて秋口に入り、季節が進んでいく。サーフィンをしていても、肌の露出した部分がクラゲに刺されないよう気を付ける時期になり、海に良い波の立つ日も少なくなっていく。

玲子からはこのところ何の連絡もなくなり、ヨッサンの店にも、圭のところにも、しばらく姿を見せていない。

圭がメールを送る。

『玲子、心配しているよ。元気にしているのかい?』メールが返ってくる。

『ごめんなさい。今は誰とも会いたくありません』

圭はメールを読んで、そのまま玲子から連絡が来るのを黙って待つことにしていた。

その週末も海が穏やかで大きな波もなく、サーフィンはできない。圭は駐車場で愛車のドゥカティのバイクを、油だらけになって朝から午後三時近くまで整備をしている。

圭が地下駐車場で作業をしていると、ジーパンにスニーカーを履き、白いシャツを着た玲子がこちらに向かって歩いてくる。顔はとても暗い表情だ。

圭が陽気に声をかける。

「おー、玲子。このところ姿を見せなかったな。暗いところから突然現れたから、幽霊がこちらに向かって歩いてくるのかと思ってちょっと驚いたよ。珍しくジーパン姿でいったいどうしたんだ?」

玲子は今まで見たことがない落ち込んだ顔をしている。

「私がここにやってこないと、圭からは短いメールで連絡が一度あるだけなのね。とても冷たい人だわ」

  

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