すまなさそうな顔で玲子が謝る。

「コーヒーの色はなかなか落ちないのよ。ごめんなさい」笑ってラグを拭きながら圭が言う。

「俺は好きなコーヒーをこぼすこともあると思い、最初からラグの絨毯は茶系のまだらにしてある。今すぐにこの布巾で拭いておけば大丈夫だよ」

圭はラグを拭き終わりキッチンに入っていき、また戻ってくる。玲子は急に何か別のことを考えているのか、ぼんやりと遠くを見るようにソファに座っている。

その横顔を見て声をかける。

「コーヒーをこぼしたくらいのことで、そんな落ち込んだ顔をしなくてもいいよ」その声で玲子が我に返る。

「ごめんなさい。私、またぼんやりとして何か別のことを考えていたようね」そんな玲子を見て心配そうに言う。

「玲子は時々遠くを見つめるような目をして、人を寄せ付けないようなオーラを出すことがあるよな」

その言葉で玲子がまた落ち込んでしまう。

「私、嫌なことがあると精神的に不安定になって自分の部屋に閉じこもり、誰とも話をしたくないことが時々あるのよ。私がそうなった時、とても面倒くさい女になってしまうのかもしれないわ」

圭はそう言った玲子の顔を、不安げに覗き込む。

「玲子の嫌なことって何なのか俺にはよくわからないけど、嫌なことがあった時は誰にも会わず、一人でいるのがいちばんだよ」

押し黙った玲子はそのまま立ち上がり、「コーヒーごちそうさま」と言い、憂鬱そうな顔で車を運転して帰っていった。