勝つためにすべきこと 張西厚志

もともとJISSが設立される2000年、JOCから施設内に専用の練習場が必要かという打診を受けており、ナショナルチームの専用練習場を持たないフェンシングにとっては待望でもあった。

だが、当然ながら使用料もかかる。それでも選手のためになるなら、何せナショナルのスポーツ施設なのだからさぞ立派なものだろう、と期待に胸を高まらせたが、実際には2ピストしかないフェンシング場を見て、思わず絶句した、と笑う。

「えー、こんな狭いところなの?って。2ピストしかなければ練習する選手の人数も限られるうえに、隣がウェイトリフティング場だったのでバーベルを置くたび、こっちの床も揺れる。正直、ここで練習するためにお金を払わないかんのか、と思いましたね」

とはいえ場所はできた。しかし今度はまた別の問題が生じる。オレグは指導の準備を整え待っているのに、選手が来ない。

理由は2つ。

1つめは、当時はそれぞれ仕事を抱えながらフェンシングをしている選手も多く、「東京に練習拠点ができたから」と言っても簡単に来られるわけではないこと。そして2つめは、経験のない"外国人指導者"に対するアレルギー。いきなりやってきたウクライナ人に自分の何がわかるのか。反発を唱える選手もいた。

五輪で勝つために自分は呼ばれたはずなのに、この現状は何なのか。オレグが張西に訴えた。

「張西さん、これでは私の仕事はできないし、このままじゃ勝てるチーム、選手などつくれるはずがない。ロシアやウクライナの選手は毎日何時間も、年間300日以上練習しているんですよ。そのチームに、この日本が勝てますか?」