騒ぎも収まり、花火見物を待っている私達。

すっかり宵闇が迫り、心地いい風も襟足に袂に吹き込んでくる。

さぁーいよいよ始まるよ。 

ドッドドーンーー。ドッドドーンーー。

(蔵人! あの爆音は戦か! ……いや洋子達は平然としておる。……むしろ楽しそうだ……ああぁーそれに夜空にあのような……あれが花火か……美しいぃー)

(左様でございます……殿がお亡くなりになられて二百年余り過ぎた後、大まかなことは省き海の向こうの国から伝わった火薬なる物を使い、かように美しい絵図を夜空に描けるようになりました)

(海の向こうの国とは明国か、余も明国の話は聞いた事があるぞ)

(恐れながら、明国ではございません。海の向こうの国というものは世界に数多くございます。殿がご存命中はそれらの国はまだ知られておりませんでした)

(そう申せば、図書館なる処で歴史を調べた折、暦が応永何年とか宝徳何年とか書いてある他に、西暦と言う物があってアラビア数字なる物で書かれてあり、そこに、様々な国と思われるものが明記してあったのだが、……なるほど余の生きた時代では考えられなかったほど無数の国々が世界にはあると言うのだなぁ~。

そしてこのようなことは至極当たり前のように起こるということか……山も川も昔と殆ど変わることなくあり続けているけれど、人だけが、人が使っている物、建物が乗り物が通信手段が、人に関係する諸々の事が変わってきているのだなぁ~……それでもこの花火なるものは美しい)

(殿の申される通りでございます)

何事も無かったように殿は花火をみつめている。きっとタマと脳内会話でしみじみと語り合っているのだろう。

「た~まや~」とふーちゃん、上手い事言う。

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