殿は花火の人員整理のために設置されていたバリケードの長いコーンバーを、右足で蹴り上げると左手で掴み、持っている枝を捨てると右手に持ち替えて薙刀のように構えた。

殺気に誘われるように部員達は打ち込んでいくのだが、上に横にと払われ反対側で突かれる始末。殿はそこに留まることなく走り出し、追いすがってくる輩をコーンバーでなぎ払っていく。走る殿を追い、橋を渡ったところにある松林に場所は移っていく。

私達も浴衣の裾がはだけるのも顧みず、思いっ切り殿達を追った。

人通りが少し出来ていたのが、殿達が走って行くので、まるで映画、モーゼの『十戒』に出て来る海が割れるシーンのように道が割れた。

松林の中、殿を取り囲んでいる部員達のところへ年長者が走って来た。

「お前たちは何をやっとるか!!」

「一体どうしたと言うんだ!!」

追いついてきた先生と先輩らしき二人が大声で威喝すると、我に返った部員達は殿を睨んではいるが構えを解いた。

殿からも猛々しさが消えた。

後から来た二人はこちらに向き直り、

「申し訳ない」と謝る先生らしき人。

「何を血迷ったのか、お前たちさっさと謝れ」

と厳しい口調の先輩らしき人。

「でも部長、やられているのは、こっちです」

厳しく言われた部員達は納得いかないと言いはっている。

「そんな問題ではない。剣道を何だと思っている」と先生らしき人が怒り顔で言えば、

「大会に出ないつもりなのか!」と部長と呼ばれていた人も怒声で言う。

部員達は一様に静まり返る。

その後、部員達は殿に一応頭を下げて帰って行った。

唯、先生とおぼしき人が謝罪と共に色々聞いてきた。どこから来たのかとか高校生なのかとか部活は剣道部なのかとか、やたら詳しく聞いていた。