僕の「本物になりたい」という答えが会長のツボにハマったのだろうか。こうして僕は本物になるために、ボクシングジムに通うことになった。

行ける限り平日は毎日のように通った。

最初の頃は遠くても、他のジムにしておけばよかったと思ってたが、僕はこの寂れたよく分からないジムが次第に居心地がよくなっていった。

なぜならここのジムの人は、強くなることへただ純粋だ。「ボクシングジムだからボクシングしかしない。」とかではなく、強くなるためにあらゆる練習をしている。

キックの練習であったり、忍者になるための修行であったり。

医学部プロボクサーの山本さん以外、ほとんどボクシングの練習なんてしていない。高校生の竹下君も、寝技をずっと練習していた。

そしてよく「ボクシングをしたら、素人に手を出しちゃいけない」なんて言われてるが、多分ここの人達はバンバン出していた。

「ムカつくヤツがいたから、しばいてやった」みたいな話を会長と谷岡さんが笑いながらしてるのをよく聞いた。

会長はよく街のクラブに行ってみんなが踊ってる中、一人でシャドーボクシングをして、それを笑ってきた若者をしばいているらしい。

百%で会長が悪いと思ったが、僕もしばかれたら嫌なので何も言えなかった。走り込みに行くと言った竹下君が、ジムの裏でタバコを吸ってても、発見した会長は特に注意もしなかった。

会長の中では、強ければ高校生だろうがタバコを吸っててもいいのだ。僕はというと、ただボクシングのみに打ち込んだ。

あの金髪坊主の顔にペチンとなったあの右ストレート。とにかく、あれを一撃で吹き飛ばせるくらいの威力にしたかった。ストレートを覚えてからは、狂ったようにサンドバックを殴り続けた。

毎日拳の皮がめくれ、血が出るくらい殴ったが、不思議と殴ってる最中は痛みを感じなかった。サンドバックを金髪坊主の顔に見立てて殴ると、いくらでも殴れるのだ。

みんなの前でボコボコにされたこと、隆志に「ダサい」と言われたこと、そういう怒りを思い出して殴ったとき、見てる会長が「いいね」と言ってきた。

やっぱり怒りは原動力だ。

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次回更新は12月22日(日)、18時の予定です。

 

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