第一章 浩、狙われる!
取り出した百ドル札の封筒をリュック正面二段袋の下の一方のミニポケットへ入れた。反対側のミニポケットには五十ドル札と二十ドル札の封筒が入っている。蓋をしてベルトを締め、ブレスレットとチェーンはリュック正面の上袋へ押し込みチャックをした。
浩は、一連の作業をしながら頭の中では恐怖と闘い、此処はもう知られてしまった!
一体此れからどうすればいいんだろう、と必死になって次を考えチャックを閉めた。
「先ずルームサービスのカレーを食べよう……」とベッドの横に座り、目の前のカレーにたっぷりのルーと福神漬け、ラッキョウをかけると静かに考えながら食べだした。
食べながらテレビを点けたら相変わらず何処の局でもバラエティ番組ばかりだった。
浩は人への思いやりなどを時代遅れだと言わんばかりに笑い、人をバカにするようなネタばかりを得意とするお笑い芸人や出演者が座ろうとした椅子を知らんぷりしてわざと引き、転んで痛がる様子等を皆で大笑いする、バカなシーンばかり多いバラエティ番組が大嫌いだった。
面白くないな!と思いながらも、人の物を取った自分はどうなんだ!と思い返し情けなくなった。人の事は言えない!
此れもテレビのバラエティ番組が与えた、社会のルールやマナーを壊しながら笑いを誘うお笑芸人の影響を、嫌っている自分自身が受けていたんだ!
気付かぬ内に次第に染まってこんな大胆な事をしてしまった自分を恥じていた。
以前はこんな悪い事をするなんて考えられなかった。やっぱり悪い事のハードルが下がっている気がした。
汚れの無い小中学生があんな番組を日々見て、将来どうなるんだろう?と思った。が、自分はそんなことを言える立場ではもうない!
テレビを消すと此れからの事に再び考えを集中した。
あの不審な男はブリーフケースかブレスレットを奪い取るまで、決して諦めることは、無い!と確信していた。