おーい、村長さん

私は、そのまま床にひざまずき、涙を流しながら天国の兄に向かって叫んでいた。

「兄貴、ありがとう。村長になったよ」

どこからともなく姉が現れて、すっと白いハンカチを渡してくれた。

「ほら。これ。あんたね、正一はずっと前から、あんたのいないところで正二を次の村長にするんだって家で何回も何回も言ってたんだからね。俺が正二の仕事を見つけてやるって。感謝しなさいよ」

「でも姉ちゃんは、最初は『影武者』のことを、村長室で怒っていたじゃないか」

「あれは、あんたの決意を試したの。迫真の演技だったでしょ。フフフ」

姉は少し上を見ながら小さく笑っていた。ということは、私が兄の「影武者」をしていることを家族も村の人たちも、初めから知っていたのだ。逆に、騙されていたのは、私だった。

村を挙げての壮大な「ドッキリ計画」だったのだ。あまりにも見事な演出に、なぜか笑いがこみ上げてきた。日野多摩村の皆さん、ありがとう。

ともかく、正式に私、権田原正二は日野多摩村の「村長」に当選した。地元のケーブルテレビのアナウンサーがやってきた。一言お願いしますとマイクを向けられ、慌てて服装を整え、初めて村長としてのあいさつをした。

「今日より、村長として日野多摩村のために全力で活動して参ります。今後ともご指導のほどお願い申し上げます」