おーい、村長さん
四
まず、立候補直前に金銭面のトラブルがあった。もし開発計画が決まると渋谷氏にいくらお金が入るのかで揉めていたという。イヤな話である。そしてもう一つの理由。
渋谷陣営は村の人々の家を一軒一軒、事前に個別訪問していた。あいさつに回りながらパンフレットと一緒に白い封筒を配り、その封筒には一万円札が何枚も入っていたらしい。
「こりゃ、なんだい。俺たちをバカにしてんのかい。そんな人には投票しないよ。そもそもうちは権田原兄弟にどれだけ世話になってると思ってるんだい」
村のおじいさんが声を上げたという。そうだ、そうだと兄と私を支持する人たちの声が大きな輪になっていった。渋谷議長陣営の人は仕方なく封筒を回収して帰っていったらしい。
明らかな選挙違反である。そんな理由で立候補を取りやめたという。これでリゾート開発計画もしばらくは動けないだろう。
村の皆さんが当選を心から祝ってくれた。祝いの酒を賑やかに酌み交わしている。皆さん、最高の笑顔だ。いつもよく見かけるおじいさん、おばあさんが心から喜んでくれている。
すると、葛西会長が私に近づいてきた。
「渋谷議長陣営の出馬辞退について、数日前に、役場の中で青山助役と会計責任者の赤坂さんが渋谷議長とやりあっていたらしいって聞いてはいたんですよ。
『あんたは村長に立候補するような資格はない。そんなお金にだらしのない人間はこの村の村長になんか誰もなって欲しくない。恥を知りなさい』ってすごい剣幕で青山助役も赤坂さんも顔を真っ赤にして渋谷議長と話していたらしいのです。そのとき、渋谷議長は黙って下を向いていただけらしいですよ」
葛西会長は小声で教えてくれた。
私も何か目の奥にジーンと熱いものを感じていた。
事務所の中も外も大勢の人が集まり、まるで村祭りのような状況である。
その祝福ムードの中、青山助役が選挙事務所にふっと現れた。「ちょっとちょっと」と青山助役に呼ばれて二人で事務所の外へと移動した。
「青山助役、事前に渋谷さんにお話ししていただいたようで、ありがとうございました」
私は青山助役に頭を下げた。
「さて、何のことでしょうかな」
青山助役は何かとぼけた顔をしながら微笑んでいる。
「村長、そんなことよりも見せたい動画があるんですよ」
ガサガサと青山助役が背広の胸ポケットから携帯電話を取り出した。