「これは前村長・正一さんの動画です。入院する直前の様子です。最後に正一さんが村祭りであいさつをするところを見てください」

動画が流れ始めるとマイクを持った兄が登場した。確かに顔色はあまりよくない。「皆さん、実は私は病気のため入院します。明日からです。もしかしたら皆さんと会えるのは今日が最後になるかもしれません」どよめきの声が上がる。

「それで、今から私は未来の話をします。よく覚えておいてください。実は私にはソックリな双子の弟がいます。名前を正二といいます。もし、仮に近い将来、この正二が私の代わりにこの村にやってくることがありましたらぜひ皆さんで応援してやってください。

全力でね。本当にいいヤツなんです。私なんかよりもずっと。いいですか、権田原正二です。皆さん、よろしくお願いします」

兄が何度も何度も集まった人に深々と頭を下げていた。

「よーし、まかせとけー」

村の人たちは大きな声援と拍手で応えていた。

「村長さん、村長さん」

今度はどこからともなく村長さんコールが湧き起こり、私にとっては衝撃的な動画だった。兄が日野多摩村にもう戻れないかもしれないと自覚していたし、それに私の紹介までしてくれている。

このことを私は全く知らず、私の目から熱いものがあふれ出してきた。兄のお別れの会で「影武者」のことを謝罪したとき、全くと言っていいほど苦情がなかった理由はこの兄のあいさつがあったからではないだろうか。

ひょっとすると、兄の「影武者」ということを私は必死に隠していたけれど、村の皆さんは私が「影武者」を演じていることを実は知っていたのではないだろうか。このことを青山助役に聞いてみたけれどニヤリと笑うだけ。

「もう一つあります。入院する直前、私だけに正一さんが言われたことがあります。

『弟の正二がこの村にやってくることがあったら絶対次の村長にしてやってください』と。正一さんは正二さんがフリーターをしていることを相当心配していました。

そして『自分よりも正二が絶対に村長に向いている。真面目で誠実なヤツなんだ。おじいさん、おばあさんのことも大切にする。そして正二は必ずこの村のことが大好きになる。これは双子にしかわからない感覚なんだ』と力説されていました。そして真剣な面持ちで『よろしくお願いします』と私に向かって頭を下げられたのです」

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