おーい、村長さん

選挙違反とも取られかねない行為であるし、日野多摩村の雰囲気とは異質なものを感じていた。

私自身が見かけたのはこの件ぐらいであったのだが事前の情報としては渋谷議長本人が村の人たちの家を一軒一軒訪問して動いているという情報も聞いていた。少し心配になり葛西会長とも相談していたのだが、慌てることなく正攻法でウチはいきましょうという方針を確認した。

役場で立候補予定者説明会に参加した日。立候補予定者として私・権田原正二と渋谷竜一議長の陣営が参加していた。

説明会に私は葛西会長と二人で参加したが、渋谷議長陣営は秘書が二名出席しただけで、渋谷議長の姿はなかった。説明会終了後、渋谷議長の秘書に声をかけた。

「お互い、堂々と政策で戦いましょう」と握手しながら伝えると「もちろん。政策論争しましょう」渋谷議長の秘書は不敵な笑みを浮かべていた。

「ちなみに、今日、渋谷さんはどうされましたか」と訊くと「お台場で会議や打ち合わせが立て込んでいまして、自由に身動きが取れないんですよ」とのことだった。リゾート開発の打ち合わせかもしれない。

「お互い、がんばりましょう」と伝えて渋谷議長の秘書とはそこで別れた。

役場を出て自分の選挙事務所へと私が向かって歩いていると、会計責任者の赤坂さんが小走りで追いかけてきた。