「権田原さん、お忙しいところ申し訳ありません。ちょっと気になることがありまして」息を切らせながらも「役場の中では話しにくい内容だったので」呼吸を整えながら話し始めた。
「実は、ここだけの話なんですが、渋谷さんの周囲でお金の怪しい動きがあるんですよ」と言うのだ。
赤坂さんによると、渋谷議長自身の会計報告書に多額の使途不明金があるという。それも他の議員さんたちと比較してもかなりの高額。さらにその高額な使途不明金が過去十年間以上毎年のようにずっと続いているというのだ。
渋谷さんの事務所の会計担当者にこの件について確認しようとすると、すぐにはぐらかされてしまい、結局うやむやのままで、今日にいたっているということだった。
「あまり大きな声では言えないのですが、権田原さんには知っておいて欲しかったので」赤坂さんは手短に話すと村役場へと戻っていった。
私はその話を聞き、政治家としてあってはならない状況であり、渋谷議長はこの件についてキチンと明確に村の人々には説明する責任がある。
そんな会計状況で村長に立候補するのかと思うと、私は絶対に負けられないし、勝たなければならない。それにリゾート開発事業も中止させなければならない。
ついに選挙運動が始まる日が来た。選挙事務所も遊説カーもすべて商店街の皆さんが準備してくれた。兄の選挙でお世話になった人たちばかり。弟の私にも献身的に活動していただいている。
私は朝一番に立候補の手続きを済ませ、選挙事務所の前で待機していた。遊説カーも準備万端。タスキやハチマキも用意し、いつでも街頭演説できる状態だった。