1ヵ月くらいして、にしむら家で会ったとき、営業所の中の所長のセクハラの写真と外の怪しげな店での痴態を収めた写真をスマホで見せられた。

「これで相手の顔を分からないように今晩処理して、明日の夜、営業所中の掲示板と壁に貼り出しておけばバッチリです」

「少し気の毒だけれど、身から出たサビということかな」

「自宅には送りつけなくていいんですか?」

「それはやめておこう。自宅に送りつけて離婚ということにでもなれば洒落にならないだろ」

「それも身から出たサビですよ」

「そうだけど、人の家庭を壊すと寝覚めが悪くないか?」

「分かりました。角野さんがそうおっしゃるなら、そこは許してやりますわ」

関西では、こういうのを『今日はこれくらいにしといたるわ』と言うそうだ。

2日後の朝、営業所はちょっとした騒ぎになっていた。掲示板に貼られていた数々の写真は前代未聞のものだった。そこには所長が女子更衣室を覗き込んでいる写真、皆が帰った後に女性スタッフの引き出しを物色している写真、キャバクラと思われるところで女の子に抱きついている写真が貼られていた。

所長は、誰やこんなことしたのは、こんなん全部うそっぱちやと、真っ赤な顔をして怒って写真を剥がしていたが、あちらこちらの掲示板にたくさん貼ってあるうえに、背が低い所長が届かないところの写真は取り残されていた。

所長の滑稽とも言える慌て方を見て、爽快な気分になったというより少し後味の悪さが残った。反田君はどう感じたかな。単純にゲーム感覚で喜んでいるかもしれない。

次に、にしむら家に反田君と行った日に所長を懲らしめたときに後味の悪さがあったか聞いてみたが、「単純に楽しかったす」というあっけらかんとした返答だった。少し違和感はあったが、それも一つの感じ方だ。

反田君とときどき一緒に夕食を食べるようになって、僕の精神的な状態はまた一時的に安定した。若いガールフレンドが、もっと若い男友達に代わったあとも、にしむら家での交流が続いている。なんとも不思議な感覚だ。少し心配していた犯人探しやお咎(とが)めはなかった。所長の味方がいかに少なかったかということだ。

その後、所長は僕に対して嫌味を言わなくなった。応援してくれるなどは望むべくもないが、例の事件に僕が絡んでいると思ったのだろうか、少なくとも大人しくしているようだ。営業所の女性にセクハラもしなくなったと噂されている。

方法はともかく、結果的にはよかったのかもしれない。一方、目の前の目標を達成してしまったからか、僕の精神状態は逆戻りして後退してしまった。何をどうすればこのトンネルを抜けることができるのか、そもそもトンネルに出口があるのかも分からない。

【前回の記事を読む】「あの所長がいる限り営業所をよくするのは難しいのと違いますか?」若手社員の接近で、所長を陥れる提案。

次回更新は12月19日(木)、8時の予定です。

 

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