「小谷くん……どうして、みかどに出入りしちゃダメって言われたの?」

彼の顔がゆがみ、「……不良のたまり場だからって……先生が言っていました」と答えました。

「不良のたまり場……? 大中の先生はみかどに一回も来たことないのに、よく言うよね」と母が苦笑すると、小谷くんのお母さんはまた頭を下げました。

「本当にうちの子のせいで、ご迷惑おかけしました」

小谷くんもいつになく堅い表情でした。重苦しい雰囲気を和らげようと、母は、

「……すると、おばさんは不良の親分ってこと?」と冗談めかして言ったのですが、小谷くんもお母さんも笑いませんでした。

それどころか、「ううん、違うの……おばさん……」と口を開きかけた小谷くんは泣き出してしまいました。

「実はうちの子がクラスで女の子のお財布を盗って先生に見つかったときに『お金はみんなみかどで使った』って……嘘をついたんです」と小谷くんのお母さんが言いました。

「申し訳ありませんでした」と頭を深く下げる二人に、両親は苦笑していました。「うちの子の話を信じた担任が『みかどは不良のたまり場だから出入り禁止にする』と朝礼のときに全校生徒に向かって告げたそうです」

「本当の話はどうなの?」と母が静かに促すと、小谷くんは「……本当は錦糸町の駅ビルでダッフルコートを買いました。……正直に言ったら、コートを取り上げられると思ったから……みかどで使ったって言っちゃった……」と言いました。

「とんでもないことになったから家に帰って、すぐにお母ちゃんに言ったら、みかどに謝りに行こうって言ってくれたから……来ました」