炎は私の過去を暗闇の中に焚き上げたのです。暗い足元だけしか見えなかった自分が、将来のことを考える自分になっていました。そして私の心の隙間を埋め、これまでとどこか違った自分に育ててくれていたのです。
キャンプファイヤーの最後は炎を見ながら一日の出来事を振り返る時間でした。
どこからともなく『家路』の曲が聞こえてきました。
静かにゆっくり流れて来るそのメロディーを聞きながら炎をじっと見ていると、昨日と今日の出来事が、まるで映画のように目の前に浮かんできました。
今、一つ一つの貴重な体験の全てが自分の宝物となって、私の身体の中にどっしりと居座っている感覚を実感したのです。
兄が「大学に行って、色々な体験をしてから社会に出るのが良い」と言っていた事を思い出し、その意味がこの時少し分かった気がしました。
そして「自分も大学に行きたい」とその時はっきり思ったのです。
キャンプファイヤーが終わった時、ふと我に返りました。いつの間にか迷い込んだ不思議な魔法の世界から覚めた気分でした。
次の年の三年生のキャンプは、尾瀬以上に魅力的な白馬岳でした。友達は楽しそうに計画を練っていましたが、私は母や兄弟の事も考え希望しませんでした。二回も行くことができて充分過ぎる程満足していたからです。
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