「里村麗子です。こちらこそ宜しくお願いします」と言って逆に麗子は落ち着き払って、冷静に返していた。

ここで須崎が「それじゃ、私はこれで。後は二人で宜しく」と言い残して、踵を返すとさっさと帰っていった。

この後、幸村は予約しておいた自慢の庭園が一望できるロケーション抜群のレストランへと麗子をエスコートした。

ホールスタッフに案内されてリザーブ席に着くと、緊張している様子が手に取る様に伝わる幸村は、名刺をポケットから出して麗子に渡す際、思わず直立して両手で手渡した為、麗子も立ち上がって両手で受け取る羽目になった。

そして座り直した麗子が「未だ、お若いのに係長さんですか。凄いですね」と言うと幸村が「いえ、東大出の同期は私より上のポジションですから……」と謙遜した。

「そもそも国家公務員のキャリア試験に合格された事が私は凄いと思います」と麗子が評すると幸村がニコリとした表情を浮かべ「麗子さんにそんな風に言って頂けて、光栄です」と案外気の利いた答えを返した。

「凄いです、本当に……」と麗子に重ねて言われ幸村は更に相好を崩し、ようやく緊張が解けたようであった。

この後二人はそれぞれの休日の過ごし方や趣味の話、今関心のある事等和気藹々と話した後、幸村が核心に触れた。

「麗子さんは、専業主婦になる事をご希望と伺ったのですがそれは本心ですか?」と直球で質された麗子は、毅然として「その通りです、今時おかしいとお思いですか?」と透かさず切り返した。