「法に触れることは辛うじてしなかったけど、あの頃の私は人生をいい加減に過ごしていたもの。私をちやほやするお客にはたかり放題にたかって、適当にはぐらかし、自分はホストにちやほやされて、いい気になって気が付いたら貢ぐ羽目になって、挙句三〇〇万円の借金を作ってしまったの。
つくづく自分の愚かさに愛想をつかし、一度自分を厳しく罰しないと人生に禍根を残すと思って、飛び込んだ先が任期制自衛官だったの。私はその時の私に懲役二年の刑を科したの。お陰で綺麗な体になって人生をやり直す事ができたわ」と木本真莉愛が懺悔する様に言った。
「でも、これからずっとキャバクラ嬢を続けていく心算じゃないでしょう?」と桜田が質すと
「田舎で暮らす母親と約束しているの。二八歳までの後三年間だけ、私の自由に生きさせてと。その後は田舎に帰って母の後を継ぎ、旅館の女将をするからと……」とキャバクラ嬢は三年間という期限付きでその後は母親の家業を継ぐのだと言った。
「えっ? 貴方は、旅館の跡継ぎだったの? 三年後は若女将になる?……」と桜田が少し驚いた様に言うと
「ええ、まあ。でもコロナ禍で予約のキャンセルや営業自粛やらで、今にも潰れそうですけど。私で五代目の旅館だから、常連さんから頑張ってとカンパが送られてくるとかで、母親が必死になって守っている姿を見ると、私が継がない訳にはいかなくて……今はホストに貢ぐ代わりに、母親に少しでも助けになればと仕送りしているわ」と健気に語ってくれた。