その1ヶ月後、今度はイケちゃんが、自分が暮らしている長野県松本市の松本城などを案内した。二人の関係性が深まり、海なし県で生まれ育った者同士、海に対する憧れがあり一緒に旅をしたいという気持ちが一致するようになっていた。

こうして、イケちゃんの提案により本州最南端の地を目指す旅をすることになった。たどり着いた最南端の地には岬潮(しおのみさき)灯台という大きな灯台があり、参観灯台だからのぼれると係員から言われた。

灯台の中に入り螺旋(らせん)階段をのぼり展望エリアに出ると、大海原の先には水平線が見えた。生まれて初めて見る絶景に魅了されてしまった二人は、それぞれに何かを感じ取っていた。

『あの絶景って強烈なインパクトがあったよな。あの瞬間に何かがパッと開けた感じがしたかも』その時の感動を維持したまま、係員からもらった参観灯台のリーフレットを見ていた。イケちゃんが何かにとりつかれたかのように検索を始めてから数分後、お姉さんに向かって提案した。

「全国にある参観灯台を完全制覇しようよ!」

その言葉に対するお姉さんの反応は……勝手にどんどん進めてしまうイケちゃんの強引さにムッとしていたようだ。

『水平線を眺めた時の感動が、これから先の運命を決めたような気がする』

イケちゃんは、初めてお姉さんを怒らせたことより、あの時に芽生えたワクワク感の記憶が上回っているようだった。

お姉さんとの初めての旅行中に、今後のことを話し合ったことも思い出した。旅行の計画を交代制での担当にするという、お姉さんからの提案があった。

お互いをもてなすという精神によって旅行の質を高めるのが狙いだった。結果は大成功となり、どの旅行計画もそれぞれの渚の性格がよくあらわれていた。

イケちゃんは、ちょっと変わったつかみどころのない性格で、それは言動にもあらわれている。交通案内所勤務という職業柄、検索能力が高くキメの細かい計画を立てられる。

潮岬灯台にのぼった直後に、残りの参観灯台15ヶ所をめぐる旅のプランを短時間で作り上げるのは簡単なことだった。マイペースな行動でお姉さんを怒らせてしまうこともあるが、自分の非を認める素直さがある。

即興で作られた旅のプランは、改めてよく見ると感心してしまうほどの内容だった。お姉さんは、この出来事がきっかけでイケちゃんとの接し方やコツを把握し始めたようである。

 

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