優子 ―夏―
聖がまたタオルケットを蹴脱(けぬ)いでいる。手足のバタバタが最近はますます元気になってきた。おむつ替えのとき、ぷくぷくした小さな足裏に掌を当てて軽く押すと、ここぞとばかりに蹴り返してくる。その力が日増しに強くなる。バスタオルを赤ん坊のおなかの部分にだけかけてやった。
今日こそ佳香(かこ)さんという女性に会いにいこう。
きのう、夜の預かりもやっている無認可の保育園をのぞいてきた。想像していたよりもずっとよかった。職員は感じよかったし、部屋も広く明るく、なにより清潔だった。夕方数時間だけなのだから、ここならいいかも、とあたしはほっとした。まだ首も据わっていない赤ん坊を、馴染みのない場所に預けるのが不安だったのだ。
区でやっている駅前の一時預かりは、安いけれど夕方には終ってしまう。第一、一歳児からだからこれは問題外。三人の子を育てたお義母さんに預けるのが安心なのだけれど、なかなかうまい口実が思いつかない。クラス会があるので――というのはこの間使ったばかりだし。なにより困るのは、佳香さんを訪ねるのはウィークデイの、しかも日が暮れてからということ。慎さんの残業の日を狙うしかない。
あれこれ迷っているうちに、おにいちゃんが家出してからもうすぐ五ヵ月になる。
【前回の記事を読む】お袋との面会。「なにもしてあげられなかった」と肩を震わせて泣くお袋を、口元だけで微笑んで見つめている妹は…
次回更新は11月27日(火)、21時の予定です。