第二章 調査1、調査2、お手本は自衛隊

刑務所に戻ると、早速豊田に連絡を入れ、矯正局長の指示を伝えた。後日須崎が豊田のもとを訪れ、調印式の日時の調整に当たった。

豊田にとっても会社トップと法務大臣の契約調印のセレモニーを取り仕切る事は出世に繋がる事間違いないので豊田は終始にこやかに対応してくれた。

この時からほぼ一か月後、T自動車の社長と法務大臣との模範囚雇用に関する契約書への調印式が、外国人記者も交えT自動車本社へ法務大臣が出向く形で執り行われた。

この調印式に矯正局長の計らいで須崎は法務省関係者の一人として立ち会うことになった。来年六〇歳の定年を迎え、役職停止で残る須崎には出世など眼中になかった。

須崎は里村の娘の相手探しに精を出していた。そんな中、法務省関係者として調印式の準備作業に追われる一人の若者が須崎の目に留まった。年の頃は三二、三歳で係長職の様であった。

須崎は(この青年が独身なら里村の娘のお見合い相手にいいかも?)と密かに思いを巡らせていた。

というのは法務省関係者として報道陣に対する対応を須崎と一緒にする中で、その対応ぶりを通じて、彼の誠実さや親切さ等を須崎は感じ取っていたのだ。今時の若者としては申し分のない好青年であった。

須崎は一段落して休憩となったところで、自ら名乗って名刺交換した。その青年は幸村拓といい三二歳の若さにして矯正局更生支援係長との事であった。好都合なことに独身との事だった。

須崎は、幸村が更生支援という事で受刑者の更生に関して意見交換をしたいので、帰りに一杯やらないかと誘い、この年齢のおじさん達のコミュニケーション術である酒肴に誘い込んだ。

乾杯して生ビールとつまみを口にしながら互いを紹介し合った後、須崎が自動車メーカーの模範囚三人を契約社員で就職させてもらえる様になった経緯を語ると

「えっ、それってうちの矯正局長が本来ならば須崎さんのお手柄なのにちゃっかり横取りしたという事ですか?」と言ってきたので

「まあ、そういう事だ。あの狡賢い人間のしそうな事だろう」と言うと