「最近の局長連中はそんな輩ばかりで、人事権を内閣府が掌握してからは、何かと政務官や副大臣にゴマする幹部ばかりが情実人事で出世し、心底尊敬できる幹部がどこの省庁にもいなくなってしまいました、残念なことです。
そういった政治家の機嫌を取る姿や実力を伴わない情実人事の横行に嫌気がさして、辞めていく若いキャリアが後を絶たないのです、その為先日の様に政府提案の立法文書に誤字や脱字があって大問題になったりしているのです、現場では……」と現在の官庁の現状を嘆いて見みせた。
「確かに、刑務所という所から本省を見ていてもひと昔前とは様変わりしている。やたらと『人権に配慮しろ!』と強要してくるけれど、肝心な矯正教育はどうするのか、は全く言ってこない。それでは不十分だ」と今度は須崎が嘆いてみせた。
須崎は頃合いを見計らって、幸村のプライベートに切り込んでいった。
「さっき独身だと聞いたけど、そろそろ身を固めようとは思わないのかい? 俺は丁度君の歳の頃に結婚したけど?」と問い質してみた。
「それは、いい人がいたなら結婚を考えますが、正直にいうと婚活する事に食傷気味というか、余り気乗りしなくなったんです。婚活アプリ等を使って、チャレンジしてみた事もあるのですが、最初に職業・年収・長男か次男か等の条件ありきの恋愛は、自分には向いていませんでした。
そうかといって、仲間に誘われて合コンにも何回か参加してはみたのですが、いいなと思った女性は、仲間がさっさとかっさらっていってしまい、結局不本意な相手と僕が最後に残るというパターンが何回かあって、今では合コンには参加したくなくなりました。
かといって、昨今は下手に女性に声を掛けるとセクハラで訴えられそうで臆してしまいます。だから今は、『なるようになれ』って心境です」と包み隠さず話してくれた。
すると須崎が「君、『月下氷人(げっかひょうじん)』という諺知っているか? ひょっとすると私は君の『月下氷人』になれるかも知れないんだが?」と鎌を掛けた。
【前回の記事を読む】物見遊山顔で自動車会社の人事担当課長が刑務所を訪問。模範囚三人の受け入れ条件の細部について話を進めるも…
次回更新は11月26日(火)、8時の予定です。