しなびて黒ずんで、売れ残りのカマスの干物みたいじゃないか。まだ五十にはなっていないはずなのに、やけに白髪が目立つ。六十歳でも通るだろう。キャディの婆さんといい勝負だ。記憶にある母親とはべつの人間に会いに行くのだ、という気構えなど、まったく不要だった。これじゃ本当に別人だ。
それにしてもなんでこんなに痩せこけているんだ? 刑務所の食事というのはそんなにひどいものなのか? 色白で下膨れ、ぽっちゃりとした体型だったはずだ。俺は家族のアルバムを開くことなどまったくないが、記憶の中のお袋の姿はそれほどぼやけちゃいない。これでは優子でなくても誰だかわからないだろう。
「連れてきたよ」
親父が声をかけると、女は無理につくった笑顔で、ありがとう、と言った。聞いたことのない声だった。
「びっくりしたな、こんなところで」
四阿の小さな天井を見上げ、親父は嬉しそうに言った。傍らの刑務官がなにか言いたそうな表情を浮かべ、しかしなにも言わない。
「今日はお昼ご飯のあと、花見会があるんです」
「ほう。ここで?」
「いえ、もっと桜の木のたくさんあるところが河川敷の方にあるの」
「河川敷? ……外の?」
「ええ。釈前房の人たちだけで行くんです」
「ああ……雪で散ってしまわなくてよかったな」
「ええ」