第二章 調査1、調査2、お手本は自衛隊
「なるほど、それなら金を貯めようと思えば貯められるよな。自衛隊の最大の魅力は、衣食住に基本的に金が掛からないからすこぶる可処分所得がいいって訳だ。その為、奥さんを働かせなくても十分世間一般的な生活水準を保てるという訳だ」と須崎が少し羨ましそうに言うと
「その通りだ。四年間の任期制を務め上げるまでに一、〇〇〇万円貯め込んだ奴が何人もいたよ」と里村が答えた。
「今は、借りている奨学金を返済する目的で任期制の自衛官に応募する若者が増えていると聞いた事があったけど? 本当なのか?」と須崎が質すと
「ああ、本当だ。男性でも女性でも気骨のある若者は奨学金を短期間に返済してしまおうと任期制自衛官を志願してくるよ。
我々としては、任期制自衛官から曹への昇進試験を受けて、終身自衛官へ転向してほしいんだが、優秀な人材程目的を達成すると別の道へとチャレンジしていく。残念なんだが個人の人生を都合よく扱う訳にはいかないから……」と里村が悔しそうに呟いた。
「それでも何人かは任期制から転向するのか?」と須崎が訊ねると
「ああ、一割から二割は任期制自衛官から任期のない曹への昇格試験で終身自衛官となっている」と教えてくれた。ここで須崎は先に調べておいた期間工の話を切り出した。
「先日、ある大手自動車メーカーの期間工、その昔は季節工といわれた職種を調べたんだが、現在は契約社員と呼ばれ、同じ様に寮が完備されていて、リーズナブルな金額で食事が提供されているそうだ。
仕事の際の作業着は支給されるうえに、六か月毎の報奨金が三五か月間に六回支払われ、その総額は三年間で三〇〇万円程になると言っていたんだが、自衛隊の任期制と競合していないのか?」と質した。
「ああ、聞いた事がある。我々の任期制を基にした節があったが、人手不足と優秀な人材を確保したいとなると勢い処遇は似たり寄ったりになるという事だ。