【知ってる佛】は君を𠮟りつけた。ごもっともごもっとも、君は【知ってる佛】の叱声が終わる前に美瑛子の手を握りしめ、
「ありがとう。一度目も大丈夫だったから、今度も大丈夫。心配かけて済まない。ありがとう」
一度目の保証が二度目に通用するのかなー。科学者とも思えぬ妙なロジックだが、と【知ってる佛】は小首をかしげたが、心底から出た言葉と判じ、君を許した。
家族に対し説明が必要なので、面会に来たら連絡してくれるように後藤医師から言われているので、君は看護師を通じて家族の来訪を伝えてもらう。
ナースステイションに隣接した説明室で、後藤医師は、ビニール紙に印刷された腸管図に、マーカーで君の腹中にある腫瘍の位置を示し、さらに腹部X線写真をディスプレイに現して、君に語った病態と手術の見通しについて、素人にも分かるよう詳細にわたって説明した。
説明が、現存する血管系が、残そうと思っている結腸を養うことができないと判断した場合には、大腸全摘もやむなしという件に及んだ時は、美瑛子と日出夫と朝子が一瞬眉をひそめた気配を、君は敏感に察知した。君も、そうあってほしくないと、再度切に切に願った。
後藤医師の説明の終わりに、明日は心臓カテーテル検査の説明があるので、家族の方の同席を願いたいとの補足があった。
後藤医師が、負荷心電図の結果を保留したこと、その保留の意味を【知ってる佛】に問うた時にむにゃむにゃと言葉を濁したこと、君はそれを思い起こして、手術に臨む慎重さは理解できるが、まさか心カテまでやらなければいけない己の心臓の状況かよ、と、一抹の不安が心を重くした。
ならばなおさらのことである。
【前回の記事を読む】二泊三日の検査入院のはずが二度目のがんの手術に…「知ってる佛」に十四年前の追憶へと誘われ…