知らぬが佛と知ってる佛

二度目の癌闘病記

君は入院には多少慣れっ子になっている。このA病院には十四年前、一度目の直腸がんの手術で入院したのを皮切りに、術後の検査入院二回、耳の手術で一回、突発性難聴の治療で二回、計六回の入院歴がある。

手慣れたもので、二泊三日の入院が延引することで当面必要な下着類とか、ペットボトルや文庫本などを売店で購入して病室に戻る。と、そこにはすでに点滴調節機を備えたキャスターが置かれてあり、間もなく栄養輸液が留置された静脈栄養カテーテルに繋がれた。

いよいよ手術に向けスタート台に立ったんだなーと、君は軽い緊張感に包まれながら、追憶記の紐をとき始めた。待ってましたとばかりに【知ってる佛】は君に、追憶記の十四年前の頁をめくらせた。

そう、一度目は、君は癌を告知されても世間一般に言われている深刻さはあまり感じなかったようだ。が、それでも今回よりは強めの緊張感はあった。

ただ当時は教職現役の真っただ中にあった(医療関係職養成の某専門学校の経営立て直しに校長として獅子奮迅の陣頭指揮を執っていた)ので、君本人より、驚きに加え、いま死なれては困るという願望をこめた周囲の緊張感の方が強かった。

聞き知ったポルトガルに在住している教え子が、わざわざファティマ(聖母出現の奇跡があったポルトガルの小さな町。一九三〇年ローマ教王はこの奇跡を公認した)に行き、マリアが描かれたペンダントを送ってくれたり、君の信奉者の一人が、[気]が出るという大きな水晶玉を贈ってくれたという、忘れられない思い出がある。