「オレこれ、持ってきたわ」

新一郎が持ってきたのは、駐車場で車を停める用の縁石だった。そんなので殴ったら死ぬし、どう使うんだと思ったけど、僕は「おお、それは使えるなー」と言った。

「そういえば隆志は? 結局来とらんの?」

「いいよ、あいつはもう。ビビったんだよ。」

口々にそんなことを言いながらも、みんなソワソワしていた。

初めてのジェットコースターに乗る前の子どものような顔だった。その緊張してるみんなの顔を見て、僕はちょっと不安になった。

「こいつら、もしかして喧嘩初めてか?」

喧嘩初めての僕が、そんなことを思うくらいに明らかにみんなの顔は緊張していた。

もしかしてみんなも僕のように大学デビューなのかもしれない。僕は少し前からそう感じるようになっていた。

いくらケンカしたいとか、昔からヤンチャしてたみたいな色々強がったことを言っても、なにかふとしたときに感じるダサさとか芋っぽさというものがあるのだ。五人の内の一人は、いつも裏地がチェック柄のシャツを着ていたし。

でもみんなそこには触れない。大学デビューということを悟られないように、みんな前を向いて生きてる。過去を捨て、過去の自分に蓋をして生きてるのだ。誰かが蓋を開ければ、過去に戻っちゃうかもしれない。そこに触れるのはタブーというのは、僕らの暗黙の了解なのだ。

そして少なくとも新一郎は違うと思った。新一郎は背も高くオシャレで、裏地がチェックのシャツなんて着ない。女の子の扱いにも慣れているし、モテている。

現に僕も新一郎のおかげで、何度もおいしい思いもしてきた。他の大学のミスコンに出てるような子とも繋がれたことだってある。

それに駐車場の縁石なんて普通持ってくるか? 僕は喧嘩したことないから知らないけど、そんなもの修羅場をいくつかくぐってなければ、武器にしようなんて思わない。

シャドーボクシングをしている新一郎を眺める。新一郎だけは余裕がある顔をしていた。大丈夫だ、いざとなればこいつがなんとかしてくれる。

「もう行くか」

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次回更新は12月4日(水)、11時の予定です。

 

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