「純二はいいところに気がついたね。牛糞(ぎゅうふん)もヤギ糞(ふん)も、いい肥(こ)やしになるけどね。中でも馬糞 (ばふん)が一番上等だからね。家畜(かちく)の糞(ふん)はどれでも、馬屋(まや)肥(ご)えと呼(よ)んでいるのだ」と話してくれました。

「何で、馬糞(ばふん)が上等なの?」と尋(たず)ねると、

「牛もヤギも反芻 (はんすう)動物で、一度食べたものを胃に送って、後で口に戻(もど)してもぐもぐと噛(か)んで、また胃に戻(もど)すのだ。馬は反芻 (はんすう)をしないので、糞(ふん)には消化しきれない稲(いな)わらの栄養分が残っているのだ。だから、肥(こ)やしとしては効果 (こうか)が大きいのだ」

と説明してくれました。使用人の吉田さんは10日に1回くらい、馬屋(まや)を掃除(そうじ)して、ハナやヤギの糞(ふん)と尿(にょう)のたまった敷(し)きわらを大八車(だいはちぐるま)に乗せて、堆肥(たいひ)小屋に運ぶ仕事をしていました。

堆肥(たいひ)小屋で積んでおくと発酵(はっこう)します。しばらくして馬屋(まや)肥(ご)えを積み替(か)えて空気に触(ふ)れさせると発酵(はっこう)が一層進みます。敷(し)きわらと糞(ふん)と尿(にょう)は微生物(びせいぶつ)の力で、田んぼや畑の作物にいい堆肥(たいひ)になるのでした。

ハナとの別れ

それから何年か経(た)って、農機具の進歩で耕運機 (こううんき)が普及してきました。

おじいさんも耕運機 (こううんき)を買って、田んぼや畑を耕(たがや)すようになりました。まだ軽トラックなどない時代ですから、何を運ぶにも大八車(だいはちぐるま)かリアカーでした。使用人の吉田さんは大八車(だいはちぐるま)を引く名人でした。

しかし、おじいさんには、重い大八車(だいはちぐるま)を引くのは辛(つら)かったようです。道路を走るために、運転免許(うんてんめんきょ)を取って、耕運機 (こううんき)に大八車 (だいはちぐるま)を取りつけると、荷物を運ぶのが大変楽になりました。