ところが、耕運機(こううんき)が来てから、牛の仕事はなくなりました。ハナは毎年仔牛 (こうし)を産んでくれて、仔牛 (こうし)が売れるので収入もあったのです。しかし、もう歳(とし)を取って仔牛(こうし)を産むこともできません。それでもそれから何年も、ハナは家族のように飼(か)われていました。
あるとき、おじいさんが、
「永いこと一緒(いっしょ)に田んぼを耕(たがや)してきたけどね。ここで、ハナが亡(な)くなると困(こま)るのだよ」と話しました。おばあさんは、
「おじいさんは非情(ひじょう)な人だ。もう少し、ハナを見ていてやりたいのに」と泣きそうな声で言いました。
「ここに来てからもう15年以上になる。ここで死んでしまったらどうするのだ。伝染病(でんせんびょう)かもしれないから、役所に届出(とどけで)しないといけない。穴(あな)を掘(ほ)って埋(う)めるにも、あんな大きな物は運べないよ。業者に頼(たの)むにも、死んじゃったら廃棄物 (はいきぶつ)だからね」
と困(こま)った顔をしています。
それから数日後、おじいさんはハナを売りに出すことを決断しました。
【前回の記事を読む】おじいさんによる緊急手術は大成功。 床が血の海になるほど出血したヤギはたったの二日でえさを食べ始めた。