商売は自分が努力すればするほど、実になるのだからおもしろい。一度商売をはじめると、やめられないとはこのことかと思った。
しかし思うとおりに進まないのも商売にはありがちなことである。三人でやりはじめて五か月目に入った頃だった。注文しても製品が東京からなかなか届かなくなった。
不安になって同じ製品を扱っている静岡の会社に電話をしてみた。
「ちょっと危ないらしい。あと一、二か月じゃないですか」
話を聞いてびっくりである。これはいかんと頭を悩ませたが、ズルズルと仕事を続けていては、大きな損害も出てしまうかもしれない。引き際も大事と、きっぱり会社をやめることにした。こうした決断の速さも、私の特性の一つだろうか。ウジウジと悩むよりは、行動することをとるほうが性に合っているのである。
社員に雇った若者二人には事情を話し、その月の給料に気持ちを加えて包み、頭を下げて辞めてもらった。これまでの事業は熊本の他の会社に譲ることにした。
まだまだ経営者としては甘ちゃんで、自覚がないと言われればそれまでだ。
ちなみにその頃、熊本市内の繁華街に、養老乃瀧がオープンした。そう、一度は店長を夢見た居酒屋である。もしかしたら自分がやっていたかもしれないと、気になって覗いてみると、いつも大繁盛である。こっちにしとけば良かったと思ってみても、後の祭りである。ただしその店も、十年ほどして気づいたときには無くなっていた。
栄枯盛衰、商売とはそんなものなのだろう。
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