今なら若い女性の一人暮らしなら、見ず知らずの男の訪問に、ドアも開けてくれないだろう。この時代はずいぶんおおらかだった。玄関先で話を聞いて、化粧品や乳液を一本、二本と買ってくれる女性もいた。けっして安い製品ではなかったが、中には月賦でフルセットで買ってくれる人もいた。

これも時代であったと思う。未来への不安よりも明日への希望があふれていた時代。美しさを求めて、自分に投資する女性も多かったのだ。

またそのとき自分で気づいたのは、なかなか営業の才能があるのではないかということ。私は少し押しの強いところもあるのだが、それが功を奏してか、なかなかの営業成績を収めることができた。会社には男女合わせて十七名の営業社員がいたが、自分で言うのもなんだが常に成績はトップの五本の指に入っていた。

ここで仕事を続けて三か月、営業のノウハウを学ぶことができたのは大きかったが、ここにとどまる気などサラサラない。私の目論見は優秀な営業社員をゲットすることにあった。目をつけたのは、自分と同様に、常に私と上位を競っていた若手の二人。共に二十代中頃と元気あふれる若者だった。

食事や飲みに誘って距離を縮め、ぐっと打ち解けるようになった頃、自分の本当の仕事を告白し、一緒にやろうと声をかけた。本人たちも乗り気になって、三人で退職した。

今になって考えれば、その化粧品会社は大きな痛手だっただろう。申し訳ないことをしたと思う。だがその頃は、自分が成功することが一番だったから、良かった良かったと大満足であった。

二人の若手のがんばりもあって、四か月ほどで契約数が千五百件になる。月に千五百個が確実に売れ、かける百円が最低限、毎月続く収入だ。さらに契約数を増やしていけばと胸算用して、これでしばらくは安泰とほくそ笑む。