この頃には既に父も側室との間に何人か子供を儲けており、廃妃の子であるユンのことを疎ましく思っていました。その上にその派閥の力もある程度大きかったので、その目論見は果たされてしまうと思われました。
然し、同時にその勢力に対して反発する派閥も少なからずおりました。彼らの長であり、ユンを支持するサホンがその事態を食い止めるべく向かったのは大妃 (テビ)(ユンの祖母)の元でした。
「大妃様、王妃様を廃位するだけでは飽き足らず、世子様まで狙う不届き者達が王様を唆(そそのか)しております。どうか、大妃様のお力で王室の威厳をお守りください」
大妃はサホンに絶大な信頼を寄せていた上に、跡継ぎは嫡子こそふさわしいと血縁に拘る方だったので、サホンの申し入れを容易(たやす)く受け入れました。
即座に父の元へ向かい、ユンを排除する声明を聞き入れないように唆しました。大妃の圧には父もとても逆らえず、結局ユンは跡継ぎの座を奪われずに済みました。
実際にユンも心の中で憎しみの炎を燃やしていただけで表面上は何事もなく、ただおとなしくしていました。そのため、母が廃位になっただけでユンを排除する大義名分は、初めから十分ではなかったと言えましょう。
こうしてユンは大妃らに守られたわけですが、なぜ母は守られず廃位されてしまったのかは若干疑問が残ります。
ユンは疎まれているとはいえ王の嫡子であり、学問は好みませんでしたが、特に不適切な言動はありませんでした。
それに対して母はというと、祖父が亡くなり、一家に殺しの嫌疑が掛けられて弱体化していたこともあり、廃位から守る口実が十分に揃えられなかったという説が有力ではあります。
或いは母と大妃の間に何か因縁関係があったのではないかと考える者もいますが、その点ははっきりしていません。
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