先読の使徒

日々の経つのは早く、旭川の夏はすぐ終わり秋も過ぎ長い冬も終わろうとしている。三月に入りもうすぐ春が来ようとしている。

英良は不思議な感覚に入り込んで行った。こういう時はいつも身体の何かを剝がされるか身体の中の思念が五感を伴ったまま、その場からかけ離れていくという状態になった。

英良は何かに引っ張られるように太いチューブの中を真っ直ぐ上がっていった。意識が薄らぎ地球の周りを移動していくのが分かる。ガラス細工を鏤めたまばゆい光が眼下に広がっているのが見える。

意識が下の方へ引っ張られていく。目を閉じた真っ暗な視界の左から点滅した光体が現れ意識が落ちた。

彼は気が付くと奇妙な建物の中にいた。その建物は、学校か宿泊施設のような大きなものであり、老朽化し薄暗かった。

英良は、その建物の一室の台の上に身体の自由が利かず寝かされていた。近くに日本人離れした顔立ちの女性が、スーツを着て佇んでいた。その女性は、英良が目覚めたのに気が付くと、椅子に左足を上にして足を組んで座っていた。……足を組み替える時、わざとスカートの中が見えるような仕草をした。

彼女は立ち上がり、椅子を片づける振りをして、形が良い上向きの尻を英良の方へ突き出した。明らかに英良の視線を誘うかのように。その後彼女は床を滑るようにスーッと近づいてきて、そして声を掛けてきた。

「光の子よ。良くお出で下さいました。お待ちしていました。私は聖地から貴方のパートナーとして派遣されて、ここ極東へ来ました。私の名はジェシカ。これから、貴方に助力するために全てを捧げます。それも私に生がある限り、将来ずっとです。それが私が神から受けた使命です」

聖地、俺のパートナー、日本人離れした容姿の女性ジェシカ、神、使命……。英良はわけが分からず頭の中が真っ白になった。人は突拍子もないことに出くわすと思考が止まる。英良はまさにこの状態に陥った。

「驚いている気持ちは分かります光の子よ。これは夢ではありません。よくお聞きなさい英良……今、貴方の魂の分身の一つが貴方の意識を持ち、今ここにいるのです。分かりますね?」

分からない、と英良は言う。