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この国を二分して流れるマテウス河の東側には、極めて小さなものまで含めると十五の領地荘園がひしめいていたが、おおむねは三つの大諸侯の領地で占められていた。
そのうち最大のものがカザルスのプレノワールであり、その南方にアンブロワ、その二国の西側に位置しマテウス河に至る領地がコルドレイユであった。
この三国は日頃から狩猟の会を催したり、誰それの祝いごとや、騎士の叙任式など、事あるごとに集い招き合う習慣があったが、それらは同じ土地に共存する彼らにとって極めて重要な外交行事であった。
その中でとりわけ大きな行事が毎年カザルスの城で催される新年の会で、アンブロワとコルドレイユばかりか小さな諸侯、領主、荘園主の殆どが招かれ一堂に会する年一回の大規模な宴であった。
カザルスの城には、各地から様々な食材が集められ、よその城の料理人までがその準備のために駆り出されたりして、何週間も前からその日の宴の準備がなされた。
諸国を遍歴している吟遊詩人(ぎんゆうしじん)や旅芸人たちも恒例の宴をよく心得ていて、決まってその頃になるとプレノワールに集結してきた。
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次回更新は11月10日(日)、18時の予定です。