ちょっと投げてみた賽(さい)がこんなふうに転がるとは思わぬ効果があったものだ。
さてはこの男の心をもてあそびすぎてしまったか、今は気持ちが高揚してこんなことを言っているが、この男にしてもこれはほんの喩(たと)えであり、本当にそこへ入るのだぞと言えば怯むに決まっている。
どのくらい性根の座った男か確かめぬうちは迂闊なこともできまい。が、もしこの男の情熱が本物ならば、これはちょっとした糸口になるかもしれぬ、シルヴィア・ガブリエルはそう思案した。
「そうか、それはえらい覚悟だな。そこまでお前を焚きつけてしまったからには俺もちょっと骨を折ってやらねばならんかもな。わかった。だが、もう少し時間をくれ、俺は今日はこれからまたアンブロワへ戻らなければならない。そう日をおかずにまた来るだろうから少し待ってくれ。ただし、お前以外に物見遊山のように見たい、行きたいという連中が増えては困る。この話は誰にも言うなよ」
とりあえずそう釘は刺しておいた。
「はい。おら、絶対誰にも言いません」
男は目を輝かせた。
「俺はシルヴィア・ガブリエルだ、お前の名は?」
「おらはペペという者で」
「ペペか、よし。ではいずれまた会おう」
そう言い残し立ち去る若い従者を、ペペは地面に膝をついたまま崇高(すうこう)な光を仰ぎ見るように見送っていた。
帰り道、エトルリアの背に揺られながらシルヴィア・ガブリエルは考えた。
ペペか、あの男は一目でこの剣を認めた。それほど凄い剣なのか、これは。村の二百年の技術の伝承はやはりたいしたものなのかもしれない。しかし、あの男が剣を抜いた時の顔をガストンの親方に見せてやりたかったな。
「そうか、この仕事がわかるか!」
きっとそう言って嬉しそうに目を細めただろうな。
シルヴィア・ガブリエルは一人そう思いながら、脳裏に浮かんだ懐かしい顔に思わず口元が緩んだ。