「じつは、あれはおまえの曾曾祖父さんの妹に当たる『ふみ』さんという人なんだよ」
「えっ? あれって……?」
唐突に言われた父の言葉に、俺の頭はついていけなかった。
「おまえが幼い間、ずっと付き添ってくれていた女性のことだ。もう忘れたか?」
俺は、今ではほとんど意識にも上らなくなっていた彼女の顔を、そのときはっきりと思い出した。
「父さん……、どうしてそんなこと知っているの? 俺は誰にも話したことないのに。もちろん父さんにだって」
父は俺の質問に答えることなく、持参してきた紙袋から古い一冊のアルバムを取り出した。初めて目にするものだった。父は上着の内ポケットからちょっと太いペン型の容器を取り出すと、収納されている細長い眼鏡を鼻にかけた。愛用の老眼鏡だ。
父はあごを突き出すように鼻先の老眼鏡を通して見ながら、ゆっくりとページをめくってゆく。そして、黒い台紙の上に糊で貼り付けられてセピア色になった、一枚の小さな白黒写真を指差した。
【前回の記事を読む】母には見えてはいないが、なぜか母はその存在を知っている「おばちゃん」母が子守唄を歌ってくれている時もそれは現れて...
次回更新は11月10日(日)、22時の予定です。