これを着ろというのか! シルヴィア・ガブリエルはあまりにも人目を惹くその衣服に気後れした。ことごとくに警戒を強めている彼には、こんな衣服でさえ村の者かどうかを試す試金石のように思われた。

着替えたまではよかったが、もしや自分の正体を露呈することになりはしないかと急に不安が募り、気恥ずかしさと不安の両方で部屋から一歩も動けなかった。そこへ一人の小姓が顔を出した。

「あ、何だここにいたんですか、あちこち探しましたよ。プレノワールからバルタザール・デバロック様がご名代でいらしてます。お館様がちょっと顔を出すようにと、お呼びですよ」

シルヴィア・ガブリエルが仕方なく戸口の方まで行くと、小姓は目を丸くして「うわあ」と驚きの声をあげた。

「どうしたんですか、その服は!」

しまった! やはりまずかったのか。シルヴィア・ガブリエルはとんでもないしくじりをしてしまったと覚悟した。しかし心配をよそに小姓は華やいだ声で叫んだ。

「うわあ、素敵じゃないですか! それは皆さんびっくりしますよ、さあ早く早く、見せに行きましょうよ!」

一つの心配が取り除かれると、恥ずかしさが増大した。大袈裟に囃(はや)し立てられてはなおのこと、穴があったら入りたいような気分になったが、小姓はお構いなく、動かぬシルヴィア・ガブリエルの手を引っ張って部屋から強引に連れ出そうとした。

冗談じゃない!と彼は踏ん張ったが、ならばと今度は後ろに回り彼を部屋の外に押し出した。丁度そこを通りかかった三人連れが加わって、小姓と一緒になって囃し立てたから堪らない。

見せ物じゃない! と抵抗するが、結局みんなにどこをどう引き回されたかわからぬまま、シャルルのいる居間に投げ込まれてしまった。恥ずかしいやら居心地が悪いやらで、もう勘弁してくれというように真っ赤になって俯いていると、シャルルまでもが大仰な声をあげてとどめを刺した。

「おお、どうした衣装替えか!」

「いえ、そのつもりはございませんでしたが、仕立屋が……」

シルヴィア・ガブリエルは消え入るような声でそう答えるのが精一杯だった。