男性の話からして、僕がこの教室に入る前までに事情の説明がされていたのだ。それを聞いていないので、唯一知っていることは叔母の電話で伝えられた樹先生が火事に巻き込まれたという情報だけだ。先生の容態や火災の発生など詳しい話は聞いてない。すると男性刑事と目が合った。

「そういうわけで、まずは月島君から事情聴取させてもらいたいんだけど」

立ち上がろうとすると入学式と同じで体が固まるように緊張していることに気が付く。

「ちょっと刑事さん、俺からでもいいですか。月島は事情聴取初めてで緊張してるんで」

秋吉がさっと手を挙げるが刑事は鋭い視線でそれを射抜いた。

「なんかすんません」

空気を察してかひょこっと頭を下げる秋吉を見ていると緊張がほぐれていることに気付く。秋吉にはいつも助けられている。

僕は立ち上がった。クラス全員の視線が僕に集中している。ああ、そうか。もし樹先生の事件が放火なら、遅刻した僕に疑いが掛るのだろう。アリバイがあっても信じてもらえないかもしれない。今日に限って遅刻してしまった僕が怪しいのは当たり前だ。それに刑事の反応を見ても、僕を重要参考人のように考えているのが分かった。

秋吉は心配そうな表情を浮かべていた。僕はいい友人を持ったと微笑み返す。秋吉は満面の笑みで親指を立てて送り出してくれた。

 

【前回の記事を読む】学校の先生が火事に遭ったという噂を聞いた僕。誰もが事情を知らないようで、空気が不安で揺れる教室。

 

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