鬼の角
道は次第に平坦になり、村のメインストリートに合流する。メインストリートといっても、直線の県道の両脇に二百メートルほどに亘って繁華街が続いているだけの、小さな宿場町といったところだろうか。もう店を開けているところもあれば、まだシャッターが下りているところもある。車はほとんど来ないので、気持ちよく走れる。
百メートルほど先の雑貨屋の前で、竹籠を背負って数人と話をしているのは爺ちゃんだ。たらの芽は採れたのだろうか。三十メートルほどに近づいたところで爺ちゃんが俺に気づいた。
「おお、翔太。いいところに来た。ちょっと止まれ」
「おはようございます」
俺は、その場のみんなに向かって挨拶をした。
「みんな。これが今話した孫の翔太です」
「いやあ、立派な青年じゃねえが。すらっとしてハンサムだし、佐吉さんの孫にしておくのはもったいないのう」
みんなの笑い声が閑散としたメインストリートに響く。なんだか俺の話で盛り上がっていたような雰囲気だ。
「お爺ちゃん。ぼくの話をしていたの?」
変なこと言ってないよね、と釘を刺したつもりのイントネーションが伝わったのか、爺ちゃんは、文句を言うな、という顔になる。
「爺さんが孫の自慢話をしても、ばちは当たらんだろう。それより翔太。おまえの方が早く家に帰れるだろうから、婆さんにことづてを頼む」
「ことづて?」
俺の力が及んでいれば、あのときとは違うはずだ。