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静まり返ったドアの向こう、薄暗い廊下で母を思う亜美。
このドアの向こうにお母さんがいる。
寄り添い暮らしてきた父さえも、今は死者となって対峙している。
「亜矢……」
消え入りそうな雄一の声。
「……これからどうしたらいいんだ」
亜美は金縛りにでもあったように動けないままドアに向かって呼び掛ける。
お母さん。
亜美にはどうしても確かめたいことがあった。
お母さん!
閉まったままのドアに向かって心が叫ぶ。
教えてお母さん!
母の温もりさえ知らずに生きてきた少女の魂が叫んだ。
お母さん私、生まれてきてよかったの?
立ちはだかるドアの前でおびえる心は壊れかけていた。
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