由美が「こんなに豪華なお正月、初めてだね」と言いながら僕を見上げた。「うん」とうなずいたら、お祖父ちゃんとお姉ちゃんが嬉しそうに笑った。
僕もいつものご飯とは違う気分だった。初めて食べた伊勢エビの刺身は、お祖父ちゃんが「醤油(しょうゆ)はほんの少しつけるだけにしろ。エビの甘さがわからなくなる」言われたようにしたら、柔らかくてちゃんと甘かった。
お重箱はきれいに詰められているからどこから手を付けていいかわからなかったけど、由美が小魚の煮物や、数の子を一つずつ「これ何」と訊く。お祖父ちゃんが由美に向かって教えた。
「おせち料理はなー由美、みんな意味があるんだぞ。これは田作りといって稲の豊作を願うもんだ。数の子はいっぱい粒があるから子孫繁栄だ」
「じゃ、これはなんで?」
由美が次々お重箱の中の料理を箸で指してお祖父ちゃんに訊くと、お祖父ちゃんはすらすらおめでたい意味を教えた。由美よりも僕とお姉ちゃんたちが真剣に聞き始めた。お祖父ちゃんはこんなことまで知っているんだ。
由美がアメ横で買ったキャビアと唐揚げを指して、「じゃあこれもこれも意味があるんだ」と言い出してお祖父ちゃんは笑い出した。
「それはおせち料理じゃないぞ」
「お義父(とう)さんは物知りですねー。ほとんど知らなかったわー」
「お祖父ちゃんはいろんなこと知ってんだねえ」
由美に褒められてお祖父ちゃんの顔がくしゃくしゃになった。
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