第一章 新しい家族
家 族
大晦日はお祖父ちゃんとおばあちゃんは料理、お姉ちゃんは買い物係、僕たちはまたお兄ちゃんの子分になってずっと大掃除だった。みんなで正月準備をしている家族の雰囲気に、由美のテンションが上がって声が大きくなり、つい僕もつられて張り切っていた。
千恵姉ちゃんが昼ご飯のとき「小さい頃のお正月は、大晦日に母が買い物をたくさんして、元日にはそれがお皿に並んでお雑煮食べるぐらいだったなあ」ちょっと寂しそうな言い方だった。
僕だって正月準備をこんなに手伝うのは初めてだ。それが楽しいと思った。去年は喪中だったから、僕たちにも久しぶりにお正月らしい日が来る。全員がテレビの前に座ったのは、紅白歌合戦が始まった頃だった。
千恵姉ちゃんは台所に立って、年越し蕎麦を作り始めた。お姉ちゃんはそれほど熱心に紅白を見ていたわけではなかった。紅白を見ながら、にこやかだったけど、お姉ちゃんは家族が揃ってテレビで同じ番組を見ていることが嬉しいんだ。
紅白の終わりに近づいた頃、年越し蕎麦がテーブルに並び始めた。蕎麦の上には、お祖父ちゃんが揚げたエビの天ぷらが載っていた。お姉ちゃんがお椀に盛った蕎麦をお父さんとお母さんにあげてきなさいと二つ置いた。仏壇に並べて、線香あげておりんを叩いて二人で手を合わせた。知らないうちに大きな菊が生けられていた。
「一年が終わったなあ」お祖父ちゃんが蕎麦を一口食べたあと、ぽつんと言った。つい僕も箸を止めてこの一年のことを考えたけど、たくさんありすぎてみんな断片的でいろんなことがあったとしか思い出しきれない。お父さんとお母さんがいなくなってまだ一年半ぐらいだ。
だから誰も「いい一年だった」とは言わないけど、千恵姉ちゃんたちのおかげで、たくさん思い出ができた一年だった。「このあと初詣は行くのか?」お祖父ちゃんが顔を上げて訊いた。「そうだ、行こう」と昭二兄ちゃんが乗った。千恵姉ちゃんは由美に「眠くない? 歩ける?」と訊いたけど、由美はまだ元気いっぱいだった。