「お蕎麦食べたばっかりじゃん」と言いながらも、みんなはふはふ言いながら食べた。結構おいしかった。
歩いているうちににぎやかだった由美の声がしなくなった。お姉ちゃんが「由美ちゃん眠いんでしょ?」声をかけてから昭二兄ちゃんにおんぶするように言った。由美は素直に昭二兄ちゃんにおんぶして、お兄ちゃんは由美が重いと大げさによろめいた。
昭二兄ちゃんは千恵姉ちゃんの言うことにはほとんど従う。おばあちゃんにはそうでもない。でもいつも昭二兄ちゃんは明るく元気だ。
十時頃みんながテーブルに揃った。明るい日差しが磨いた窓を照らしている。お祖父ちゃんもおばあちゃんも外に出かけるような服を着て、いつもはばさばさの茶髪に手拭いをかぶっていることが多い昭二兄ちゃんが油をつけてオールバックにしていた。
テーブルには豪華なおせち料理が置ききれないくらいに並んでいた。真ん中にはお重箱、アメ横で買った伊勢(いせ)エビ、お祖父ちゃんが鯛をお作りにしてくれたお皿。鮪も端に載っている。唐揚げもあったし、サラダの大皿もあった。
それぞれの前には紅白の袋に入った割り箸が置いてあり、お姉ちゃんの字で名前が書いてあった。お姉ちゃんがお雑煮を配ってから、すごく嬉しそうな表情でエプロンを取って座った。
お祖父ちゃんがお銚子(ちようし)で大人たちのお猪口 (ちょこ)に注いで、僕たちはオレンジジュースにした。
「明けましておめでとう」
お祖父ちゃんが真面目な顔して、お猪口を上にあげた。僕たちも小さな声で「おめでとうございます」と言ってジュースを飲んだ。