浩は、リュックからアルミのアタッシュケースを取り出し、じっと眺めた。そしてアタッシュケースを手元に引き寄せると、丁寧にガムテープとアルミテープをゆっくりと剥がしていった。何とかアタッシュケースからブリーフケースを取り出せるところまでテープを剥がし終えると、やや強引に隙間から引っ張り出した。

ブリーフケースの鍵を開け、全てを出し、何処かに隠しポケットのような物が見当たらないか手で探りながら、目でもしっかり追ったが、やはり見つけられなかった。クリアファイルに入っていた英語の書類は、七枚有ったが英語が不得意な浩には全く読めなかった。

ブリーフケースの中へクリアファイルとニューヨークまでのエアチケットを戻し、その時にブリーフケース片面に貼り付けてあるシールに記載の会社名とニューヨーク事務所のアドレスを書き写した。

ブレスレットとチェーンはアルミでしっかりくるんであったが、ふと気が向いて横に置いた。ブリーフケースを閉め、アタッシュケースの中へ入れて剥がしたアルミテープとガムテープを丁寧に再度貼り付け、リュックの中へ押し込んだ。そして部屋に有ったランドリー袋をアタッシュケースの上から被せ、目立ちにくいようにしてチャックを途中まで無理やり閉めた。

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