爺ちゃんは十分に拝んだあと、仏壇を背にして正座した。その様子は、自分がご先祖様すべてを代表してこれから話をするのだという威厳に満ちていた。

「そこに座りなさい」

その声にはなんとなく、どんな反論も受けつけないという強い意志がみなぎっていた。俺は座布団をあてて、質問することも憚られるような雰囲気の中、爺ちゃんが話しだすのをじっと待った。

爺ちゃんは手元の火鉢の炭火から、あえてゆっくりとキセルに火をつけた。この時期に火鉢に炭が熾らせてあるのは、まだ朝晩冷え込むことがあるからだろうか。いや、この部屋に俺を呼んで話をすることを、きっと朝から決めていたのだ。一服つけないと話せない、そんな話がこれから始まるのだと思い、俺も背筋を伸ばしてそのときを待った。

爺ちゃんは二、三回吹かしたあと、火鉢の灰の中に埋めてある竹筒の角に、雁首を「カン」と打ち付けて灰を落としたあと、キセルの中の煙をフーっと噴き出した。

そして、おもむろに話しだした。

「翔太。父さんから何を聞いたかわからんが、これからわしが話すことが真実でありすべてだ。黙って真剣に聞きなさい。このことは、おまえの後継者が決まったときに、今のわしと同じように話して聞かせてやるんだ。だが、それ以外は、おまえが棺桶に入るまで他言無用であることも、あらかじめ申し添えておく。しっかり中村家十五代目としての自覚を持って聞いてもらいたい」

爺ちゃんの話は父の話にも増して、更に信じられないものだった。先ほどの父の話が全くうわべだけのものだったことがわかった。父が跡継ぎになるだろう前提で、この話のごく一部を爺ちゃんが父に語って聞かせたのだろう。

中村家がこの地域の十カ村を束ねる大庄屋であり、江戸時代中期に名字帯刀を許された話は、父から聞いていたとおりだった。だが、そのような財力をどのようにして獲得したかについては初めて聞くことだった。