「そなたはどう思う?」

「はあ、私はそのう、普通ならばそのような突拍子もないことを言い出す輩(やから)は、無理にでも何か持たせて追い払うところでございますが、どうも何かこう惜しいような気がいたしまして。

いやわかりません、とんだ食わせものかもしれませんが、もしやひょっとして手に入れがたい逸材であったならと。一度直(じか)にあの者をご覧になってご判断なさってみてはいかがでしょうか」

「ほう、惚れ込んだか」

冷やかすようにシャルルが笑うと城代は手を振って、いえ、という素振りを見せたものの、すぐさま赤い顔をして萎れた。

「わかった。そなたがそう言うなら一度会うてやるわ。どこの何と申す者だ?」

「はい、ヴァネッサとか聞いたことのない地より来た、これまた妙な名前でシルヴィア・ガブリエルと申しております」

「何! ガブリエルだと!」

シャルルの頭に閃光(せんこう)が走った。

シャルル・ダンブロワは目を疑った。今朝方荒馬を宥めて乗りこなしたという旅人は、さぞかし腕っぷしの強い豪壮な男だろうと思っていたのに、連れてこられた若者はまるで女が男装して現れたかと思うほど華奢な姿をしていた。

すらりとした、しなやかな体つきもさることながら、色白のその顔がすこぶる美しかった。

真っ直ぐにこちらに向けられた瞳は、夕暮れの湖面のように灰色を帯びた深い水の色をたたえ、色素の薄い柔らかな細い絹の髪が、その優美な顔の輪郭を明るく炎のように包み、肩を覆っていた。

衣服は青みを帯びた淡い灰色の薄布を何枚か重ねたような生地で仕立てられ、飾り気がなく柔らかな質感が、その者の容姿から発する雰囲気によく調和していて好ましかった。