第1話 天空の苺

光の中を蜂が飛びかっている。智子の目線は、そのうちの1匹を追い続けていた。不規則に飛び回っているように見えるが、蜂には意図がある。蜂はようやく小さな花弁に止まった。智子はそっと近寄って小さな蜂を見つめた。

蜂は揺れる花弁に顔を入れ、小さな触手で花粉を撫で、触手に花粉を擦(こす)りつけると飛び去っていった。

苺の苗は美しい緑の葉をたたえ、床に向かってツタを伸ばしていた。苺の小さな白い花は繁栄の証し。受粉が適切に行われているのを確認して、智子は透明シートのカーテンをくぐり抜けて第2区画に移った。こちらの区画ではすでに成育した苺がたわわに実っている。

まだ白みがかってはいるが粒は十分に大きく、魅惑的な芳香をかすかに放ち始めていた。第2区画も光に満ち溢れていた。天井のパネルは太陽光から放射線や紫外線など有害なものを除き、苺の成育に必要な光だけをストロベリーファームに取り込んでいる。

孝太が苺の苗の根元に伸びるチューブのバルブを調整していた。苺は床から組み上げられた細いフレームの上に生い茂っている。水耕栽培だが水路のようなものはなく、苺の根元にはスポンジ状のユニットがあり、細いチューブで苺の成育に必要な水溶液が供給されていた。