「ええ、このお店は祖母の代から続いています。ずっとこの十燈荘で花屋を営んでいるんですよ。うちの他は、さっき言った十燈荘エステートさんも長く商売をしています。うちは花屋で、あちらは最初は植木屋だったんです。今では何でも屋みたいなことやってますけど。

他にも、昔はお店がもう少し多かったんですが、道が整備されて藤市まで車で往復するのが楽になったら、いくつかのお店は潰れちゃいましたね。スーパーで買いだめすれば良いから、小さな店はやっていけないんです」

「住民は、積極的に店を潰そうとしているのですかね?」

「人聞きの悪いことを言わないでください。……でも、そうですね。この町に住んでいる人は、お店なんてない方が高級住宅街として価値があるって考える人が多いみたいですよ。うちはなんとか、お花を届ける仕事で食い繋いでますけど」

「花屋一本で、長年経営されているのは凄いことだと思いますね」

「祖母も母もやり手だったんです」

少し嬉しそうに、堀田は家業を説明した。

「昔はお花も売れなくて、わざわざ買うものじゃないって空気があったんですけど、色んな家を回って、お花の飾り方をお話ししたり、華道教室を開いたり、そういうので需要を掴んでやってきたんですよ。まあ、お葬式が一番大きな儲けだったみたいですけど。これは今でもそうですね」

そう言ってから、あっと堀田は口を噤(つぐ)んだ。

 

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次回更新は10月13日(日)、21時の予定です。

 

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