「では『じゅっとう通信』の件はここまでにして、夏美さんのことをもう少し聞かせてください。夏美さんがここに引っ越してきたのは六年前ですよね。何故、去年の四月から急に働き出したのでしょうか?」

「さあ……理由については聞いていません。ですがお花は好きだと言っていました。自宅のリビングに飾るためのお花もよく買ってくれましたし、ガーデニングも楽しんでいると聞いたことがあります。うちは社員割引がありますから、それが理由じゃないですか?」

「決めつけるのはよくありません」

深瀬は笹井相手の時よりは優しく、それを諭した。

「人間の行動には必ず意味があります。働き出すタイミングは人それぞれでしょうが、だいたい子どもの手がかからなくなった時などが多いでしょう。もしくはお金が必要になったか、家にいることが嫌だったとか」

「確かに春樹くん達はもう中学三年生ですし、パート勤務ならもっと前に始められますよね。でも、お金がないとか家にいたくないとかは、考えすぎじゃないでしょうか。思い当たることがありません」

刑事というのは仕事柄、細かいことが気になるのだろうと堀田は口を尖らせた。そうかもしれません、と深瀬はその話を流す。

「ところで堀田さん、あなたはこの十燈荘でずっと商売をされているのですか」