地震の予知は減災の一手段にすぎない!
その一方で、『今村は地震予知の実現が、地震災害軽減・防止の切り札であると考えていたわけではなかった。「地震災害を少なくするために第1に必要なのは「我々の町村を耐震構造を以て武装する」ことであり、第2は「地震知識の普及」である。「地震予知問題の解決」は第3の課題にすぎない」と述べている。
地震予知だけが実現したところで、人命損失を少なくするには幾分の効果があるにしても、構造物の破壊は食い止めようがない。そして地震の知識がない社会では、地震予報が発表されたとしても理解されないので、人心を騒がせるだけに終わる。その利益よりも弊害の方が大きい、と今村は再三繰り返した。』(4)と言う。
3.国を動かした「ブループリント」!
先人たちの血の滲むような地震予知研究の努力はついに結実することが無かった。しかし、可能性の出て来た地震予知の実用化のためには、国の財政支援による地殻変動の継続的な観測体制の強化が必要である、と提言したのは地震学会メンバーが取り纏めた「ブループリント」であった。
ここに 1965年から数次にわたる国の「地震予知研究計画」がスタートした。
地震予知研究のバイブル:「ブループリント」
地震学会(1929年今村明恒等によって再開)の中で、気象庁長官の和達清夫らによって取り纏められた「地震予知― 現状とその推進計画」は1962年3月に公表された。この計画案はいわゆる「ブループリント」(青写真)とよばれ、その後の地震予知研究のバイブルとなった。
「ブループリント」はその緒言の中で「地震の予知の達成は国民の強い要望であり……現在までの地震学の研究は地震予知の実用化の可能性を示している。ただ、これを達成するためには、国家の本問題に対する深い理解と力強い経済支援を必要とする」と地震予知の実用化と国家の財政支援は不可分の関係にあることを訴えた。
(1) 泊 次郎『日本の地震予知研究130年史 明治期から東日本大震災まで』(一財)東京大学出版会 2015年 168、170、172頁
(2) 黒沢大陸『みちものがたり 水準測量路線(静岡県) 地震予知 「唯一の観測例」』朝日新聞2017年3月11日 B・6面
(3) 泊 次郎、前掲書、186、187頁
(4) 泊 次郎、前掲書、173頁
【前回の記事を読む】「関東大震災」を予知できなかった地震学者に批判!大地震を契機に、地震研究所が設立される。
次回更新は10月7日(月)、8時の予定です。